『愛なのに』ネタバレ感想・考察です。女子高生が年上男性に恋する設定が気持ち悪いと言われることもある本作ですが、実は描かれている感情はとてもピュアなものなので、その点について解説しています。

この映画、すごく面白かったです。
作り手の「偏愛(個性)」が見事に映画に昇華されており、ラストでしっかり納得させられてしまいました。
本作は、高校生が、年齢が倍近い古本屋の店主に恋をするという、男性の願望的なシチュエーションが描かれるので、気持ち悪い作品として捉えてしまう人もいると思います。
しかし、劇中で描かれる、人と人同士の「気まずさ」に着目しながら観ると、意外とピュアな恋愛感情がチャーミングに切り取られていると思えて、奇妙なのだけど、憎めない恋愛劇に見えてくる作品でもあります。
あらすじ
古本屋の店主・多田は、店に通う女子高生・岬から求婚されるが、多田には一花という忘れられない存在の女性がいた。一方、結婚式の準備に追われる一花は、婚約相手の亮介とウェディングプランナーの美樹が男女の関係になっていることを知らずにいた。
映画.comより一部抜粋
どうでも良くない相手だから、気まずくなる
昔のバイト仲間から飲みに誘われた多田は、そこで当時いっしょに働いていた「一花」が結婚することを知らされます。
実は、多田は一花に告白したが、フラれてしまった過去があります。
それが気まずくて、多田にだけ結婚の連絡が来なかったのだろうと、バイト仲間には言われてしまいます。
その後、経営する古書店に来た岬に多田は質問します。
「(いつも店にくるたびに告白してくれるけど)告白して受け入れてもらえなかったら、気まずいじゃんか。それでもあなたがここに来るのはなんで?」
岬との会話のなかで、多田はふと思う。
(どうでも良くないと、きまずくなるのか…)
一花が気まずくて結婚連絡してこなかったのだとすると、一花は多田のことを「どうでも良いとは思っていない」ことになる、と彼は考えたわけです。
簡単に言えば、一花はいまも多田のことを「意識している」かもしれない、ってことですね。
どうでも良い相手には、どんな態度になる?

もうすぐ結婚する彼の浮気に気づいた一花は、家に帰りたくなくて一人で立ち飲みに行きます。
そこで何となく多田との過去のLINE履歴を眺める。
多田の想像どおり、一花も多田を意識していたことが明らかになります。
そこで、一花は知らない男に「奢るから飲もう」とナンパされるのですが、「奢ってくれるんですか、じゃあ…」と、一花は伝票を男に渡して、店を立ち去ります。
何でもないシーンなんだけど、これは実に本作のテーマに忠実なシーンで、「どうでもいい男だったら気まずくなってもいい」ことを、直球で表現しているシーンでもあります。
ナンパ男の視点からすれば、(ひと晩遊べたらいいだけの)どうでもいい相手だからこそ、無遠慮に口説くことができた、ということでもあります。
ここでハッキリと、一花にとって「多田」が、どうでも良くない人であることが描かれます。
どうでも良い相手同士の熱愛

一花の結婚相手である亮介は、こともあろうに自分たちの結婚式のウエディングプランナーの美樹と不倫しています。
この2人はわりきった関係で、お互いがお互いに対して実に遠慮がない関係です。
だからあるとき、美樹は亮介に言います。
「話すと面白いし何でも知ってるけど、SEXは下手ですよね亮介さん」
この告白に対して、亮介はショックを受けるのですけど、彼女のその感想に対してズケズケ深堀りしていくんですよね。
これも割り切った関係でないと無理じゃないかな。
だいぶ気まずい会話ですよこんなの。
さらにすごいのは、そこに対して美樹が、昔、夜の店でも働いてきていろんな人と関係もったけど、その中でも「群を抜いて下手ですよ」と追い打ちもかける。
ここでのお互いの会話の進行が、気まずさとは無縁の率直さで、情けない話のはずなのに、不思議と清々しい気持ちにさせられるのが実に面白かったです。
下手であることを「言えるわけないじゃんか」
一花は、亮介への腹いせに多田をラブホテルに誘って関係を持ちます。
そこで、彼女は多田と比較して亮介がSEXが下手であることに完全に気づきます。
その話を一花がすると、多田は「本人には言ったの?」と。
そこでの彼女の答えは「言えるわけないじゃんか」なのですよね。

つまり、本作のルール(気まずさ=相手への愛情)に照らすと、何だかんだで一花は亮介を想っていることになります。
(亮介が一花に対して、気を使っているシーンもいくつか描かれることから、2人は想い合っていることがちゃんと示されています)
一方で、こんなあけすけな話をできる関係になってしまった多田と一花の関係は、完全にどうでも良い関係に堕ちてしまったとも言えます。
何かすごいですよね。短期間で2回目のSEXまでしているのに、2人の関係は、むしろ離れてしまったわけですよ。
帰り道で、今後もたまにあってホテルに行こうと一花が誘いますが、一花のことを好きな多田は断ります。
そして後日、彼女から結婚式の招待状が送られてきたことで、多田は気づいてしまいます。
あぁ、自分は彼女にとってどうでもいい側の人になってしまったんだなぁ、と。
恋愛のこそばゆさとは、「心地よい気まずさ」なのかもしれない

最初は、「いつも告白して断られてるけど気まずくないの?」と、どうでも良い人にするような不躾な質問をしていた多田が、だんだん岬との関係を壊れ物を扱うように大切にし始めます。
そして、家に乗り込んできた岬の両親に対して「彼女の好きっていう気持ちを否定しないでください」と抗議する。
本作では一貫して、多田と岬の関係は、歳の差があることもあるけど、ずっとこそばゆい関係として描かれています。
最初は多田の人格を疑いながら観てしまうのですが、繊細な関係が壊れないように、お互いに気を使いながら大切に言葉を交わしている姿が重ねられることで、最後には2人の関係が「もしかすると、本物かもしれない」と思えてきます。
多田が持っている読み終わらない本が、彼の未練のようなものだとすると、最後にはあと一章で読み終わるところまで来ており、それに対して「読み終わるまで待ちます」と岬は応えます(ほぼ告白ですよね)
そしてその後、引き出物の夫婦茶碗の片方を、多田が岬に「あげる」とわたします(ほぼ告白ですよね)
「やったー」と、岬が無邪気に喜んで終幕。
最後に2人の想いがつながりそうな気配だけを示して、サラッと終わるのがとても上品でした。ここは引くべき最後の一線だったように思います。
途中の展開は不倫やワンナイトなど、事象だけ見ればけっこう下品な展開も多かっただけに、ラストで描かれるピュアな恋模様にクラっときてしまいました。
誤解されてしまう要素が多い作品で、それは仕方ないけど、個人的には素敵な恋愛映画だと思えました。