『ゴースト・オブ・ウエノ』ネタバレ感想・考察です。

上野で「ゴージョー」と呼ばれるホームレスの男が死亡した。
ソーシャルワーカーのサツキ(門脇麦)は、彼が残した日記を手がかりに彼の正体を明らかにしようとする。
ホームレスのネットワークを訪ね歩く彼女は、ゴージョーの正体を求めつつも、かつて行方不明になったと思わしき父親の消息とゴージョーの存在とを重ね合わせていく。
一方、彼女が懇意にしているホームレスのトシ(竹中直人)は、亡くした妻の面影を、支援員であるサツキの中に見いだしている。
ゴージョーの痕跡を辿っていたはずが、気づけば、サツキが自分の過去を求める旅のようになっている。
心の奥底を安易にわからせない展開で、スッキリはしないが、それが全然いやな感じじゃなく描かれていたのは見事だった。
人生を肯定してくれるような温かみのある映画だった。
あらすじ
上野で「ゴージョー」と呼ばれていたホームレス男性が亡くなった。彼の本名も、生前に何をしていたのかも、なぜ公園のテントハウスにたどり着いたのかも知る者はいない。ソーシャルワーカーのサツキは、妻を亡くし公園で暮らすトシの助けを借り、ゴージョーが遺した日記を手がかりに彼の正体を求めてホームレスのネットワークを訪ね歩く。やがて1人の女性の存在が浮かび上がり、ゴージョーが自ら家族との縁を切ったという過去が判明する。それは、サツキの人生をも大きく揺るがす事実だった。
映画.comより一部抜粋
その人のことは、その人にしか分からない

本作では、ゴージョーという正体不明のホームレス男性を起点に、周辺の人々が抱える言葉にできない生きづらさや満たされなさ、あるいは喪失感のようなものが淡く描かれる。
このもやもやとした現実の一端を描くことを主眼としている一方、物語的な終着は、ややはぐらかした感もある。
サツキが読んでいた日記はゴージョーのものではなく、別のホームレスが書いたものだったというオチは、本作が描く「他者の本心を想像することの困難さ」を象徴する結末だ。
ただ個人的には、このオチすら本当なのかどうか疑わしいと感じた。
オチとして語られる「日記を書いたのはゴージョーではなく、別のホームレス」という話自体が、彼らの口から出まかせの可能性もあると思わせられる。
本作は意図的に、それぞれの人物の内面に立ち入らせない作りになっている。
その人の過去や本心が、明示されることはほぼない。
観ている最中、人物が何かセリフを言っていても、それが本心とは限らないということを何度も意識させられる。
トシは、日記がゴージョーのものではないと知っていたかもしれない。
トシはサツキと過ごす時間が楽しくて、それを引き延ばしたくて、真実を伝えなかったのかもしれない。
でも、その日記が本当にゴージョーのものではないのかと言えば、それは定かではない。
本作は結論を見せる物語ではなく、プロセスを見せる物語だった。
真実はどこにもないし、誰にもわからない。
自分が何を信じたいかが大事。そんな世界観に思えた。
サツキが街中で声をかけた、とある女性が引きずっていた重たげなトランクの中には、何が入っていたのだろうか。
もしかして…、死んだ赤ちゃん?誰かの死体?
なんてことを想像してしまったが、これも結局、謎のままだ。
ゴージョーに対してサツキが父親の姿を重ねたように、
トシがサツキに亡き妻の面影を見ていたように、
人は勝手な想像を膨らませ、都合の良いストーリーを他者に投影する。
ホームレスは、“家のない人”ではない

湖畔のベンチで、サツキとトシが語らうシーンが印象的だった。
ホームレスとホームレスでない人の境界は、2人の間にある、ベンチのひじ掛けくらいの隔たりしかないのかもしれない。
本作で言う「ホーム」とは、単に雨風をしのげる場所ではなく、心理的な「帰る場所」や「寄る辺」のことだと感じた。
ゴージョーは、ちょっと上等な喫茶店でコーヒーを飲み、馴染みの店員と言葉を交わすことを楽しみにしていた。
ホームレスを支援しているはずのサツキは、なぜか誰よりも孤独に見える瞬間があったし、ホームレスのトシとの交流が心の支えになっていた(ようにも見えた)。
序盤に、ソーシャルワーカーよりも生活保護者のほうが年収が高いことに言及されていたのは、意図的な描写だろう。
お金がないからホームレスになるという、単純な構造ではないのだ。
現代においては、誰しもがホームレスになり得る。
観る人によって、様々な感想を持つ作品なのではないだろうか。
サツキがゴージョーに父親の影を見出したのと同様、物語で描かれる人物の一人ひとりに、観る人が何かを投影しながら浸れる映画だった。
このように解釈せよ、と強く主張しない作風のため受け取りは人それぞれになるだろうが、門脇麦と竹中直人の醸し出す、ドライなのに親密な雰囲気がとても心地よく、映画として上手くまとまっていたと思う。
少なくとも、主演の2人、どちらかでも好きな人には強くおすすめできる作品だ。