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『花まんま』感想:兄妹の絆と「役割」からの解放を描いた物語

『花まんま』ネタバレ感想です。物語の構造や気になった点について言及しています。

兄妹の家族愛をテーマにしたピュアな物語。

演出よりはドラマ的な展開で魅せるタイプの作品で、肩の力を抜いて物語に身を委ねられます。

 

加藤俊樹(鈴木亮平)と妹のフミ子(有村架純)は、幼い頃に父親と母親を亡くしているという境遇です。

兄の俊樹は、父親と母親から「お兄ちゃんなんだから、妹を守ってあげなさい」と、幼い妹を託され、両親の言葉の通りに、中卒で働いて立派に妹を育て上げたのでした。

 

温かい家族愛がベースにありつつ、家庭事情から重責を背負った俊樹と、とある事情からふつうの妹として生きられなかったフミ子が、もう一度、純粋な兄妹の家族の関係に戻っていくという、感動の物語です。

 

あらすじ

大阪の下町で暮らす加藤俊樹とフミ子の兄妹。兄の俊樹は、死んだ父と交わした「どんなことがあっても妹を守る」という約束を胸に、兄として妹のフミ子を守り続けてきた。妹の結婚が決まり、親代わりの兄としてはやっと肩の荷が下りるはずだったのだが、遠い昔に2人で封印したはずの、フミ子のある秘密がよみがえり……。

映画.comより一部抜粋

妹の秘密と向き合うことになる俊樹

ある日、俊樹はフミ子から結婚の報告を受けます。

しかしその裏では、長年隠されてきた妹の秘密も明らかになっていく…。

結婚することはめでたいが、俊樹は素直に妹の門出を祝福することができません。

 

一瞬、ミステリっぽい雰囲気が漂うけど、これは早々に種明かしされます。

フミ子の秘密とは、彼女が生まれた日に、同じ病院に担ぎこまれて亡くなった繁田喜代美さんの記憶が、フミ子に宿っていたのだ、という驚きの事実です。

 

本作が興味深くて、どうしようもなく惹きつけられてしまうのは、単に、「俊樹が妹の秘密を知っていく物語“ではない”」ことだと思います。

俊樹はそもそも、幼い頃に母親に内緒で繁田の家に妹と2人で訪れており、その時に、妹には別人の記憶が宿っていることに気づいていました。

 

ただ、父と母から託された大切な妹が、赤の他人の魂を宿しているなんていう、おかしな事実を認めたくなくて、長年見て見ぬふりをしていたのです。

そこにドラマが生まれます。

役割を果たせなかった「父親」と、役割を背負わされた「お兄ちゃん」

本作には、もう一人、重要な人物が登場します。

それは、亡くなった繁田喜代美の父親の、繁田仁(酒向芳)です。

 

喜代美さんが命をおとしたのは、なんと結婚式の2日前…

繁田仁は、娘の幸せを見届けることができなかったことを後悔し、個人的な罪悪感に苛まれています。

彼は、「父親としての役割をまっとうできなかった人」として描かれています。

 

一方で、両親から妹を託された俊樹には、父親役でもあり母親役でもある「お兄ちゃん」という役割がかせられました。

結果的に、彼は進学をあきらめて妹のために働き続けました。

 

妹を立派に送り出すという一念で生きてきた彼は、あらゆる物事を自分一人で背負って生きてきたという自負があります。

それは、彼にとって苦難の記憶でもあるけれど、頑張った証でもあって、心の拠り所にもなっています。

 

だからこそ、人生を賭して育て上げた妹が、「私には喜代美さんの記憶がある」と言い出し、結婚式というハレの場で繁田仁を父親として扱おうとすることに、強い拒否反応を示すのでした。

俊樹がようやく、「“ただの”お兄ちゃん」に戻っていく

結婚式のスピーチで、俊樹は妹を立派に育てるために、自分が全て背負って、何もかも一人で抱えてやってきたつもりだったけど、自分たちの周りにはいつも、優しく支えてくれる大人がいたと話します。

 

このスピーチ部分、鈴木亮平の一人語りが続く見せ場なのですが、圧巻の演技で「これ、結婚式の主役がお兄ちゃんになるやつやん」と思って観ていました。

東京MERのときとは完全に別人で、本当にただのお兄さんになっているからすごいですね。

 

スピーチの最後、婚約者に、「フミ子を幸せにしてください、頼みます」と伝えたその瞬間、俊樹は「ただのお兄ちゃん」に戻れたのだと思います。

 

そして、式が終わるのと時を同じくして、フミ子の記憶から繁田喜代美も消えていきます。
長い時を経て、2人はようやく、ただの兄妹の関係に戻れたのです。

繁田仁を演じた酒向芳さんの名演

結婚式が終わった後、繁田喜代美の記憶をなくしたフミ子は、繁田仁に「今日はどちらから来てくださったんですか?」と問いかけます。

すでに父と娘の別れが「終わっていた」ことに後から気付かされる残酷さと、すべてを飲み込んで対応する繁田仁の誠実な人柄と父親としての矜持にぐっと来る場面でした。

涙をこらえ、「参列者の一人」として、祝いの言葉をかける酒向さんは名演でした。

 

このシーン意外にも、フミ子の結婚報告に応じる場面やラストの車中での号泣など、複雑な感情表現を求められるシーンが多く、本作は、酒向さんなしでは成立しなかったと思ったほどに大活躍されていたと思います。

余談:解釈によっては、矛盾と感じられる箇所がある

フミ子のなかにある「繁田喜代美」の記憶についてです。

式が終わるとともに、彼女の中から繁田喜代美の記憶がなくなるのは良いとして。

でも、フミ子自身の記憶がなくなったわけじゃないのに、繁田仁に関する一切の記憶を失ったかのような状況になるのは、論理的に矛盾が生じるように思いました。

 

ただ、これは解釈次第だとも思っています。

フミ子の中にいた繁田喜代美さんが、繁田に関する記憶を彼女の頭の中から全部持っていったのだ、と考えると、それはそれで物語としては腑に落ちる気がします。

個人的にはこの解釈が気に入っています。

 

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