『MERCY マーシー AI裁判』ネタバレ感想。SF設定の弱さと、一方で、主人公と同化させられるような臨場感ある演出についても触れています。

『MERCY マーシー AI裁判』は、AI裁判により司法が完結する近未来を描いた、SFアクションスリラー作品。
冒頭、主人公のレイヴンが目を覚ますと、椅子に拘束されている。
彼に自覚はないが、殺人を犯した罪で捕らえられているのだという。
所定の時間内に、自らの無実を証明できなければ死刑になる、という緊迫した状況から物語がスタートする。
主人公は拘束され一歩も動けないが、AI判事と対話しながら、監視カメラ映像から個人の私的な通話記録に至るまで、あらゆる情報が閲覧可能。
遠隔で警察官に指示を出し、現場操作や怪しい人物の追跡、尋問までできてしまう。
主人公が拘束されている状況を除けば、古き良きアームチェア・ディテクティブのような展開の作品となっている。
あらすじ
凶悪犯罪が増加する近未来。敏腕刑事のレイヴンは、バディを組んでいた同僚警官が捜査中に殉職し、犯人が裁判によって無罪放免となったという苦い過去から、AIによる厳格な裁判制度の制定を提唱し、AI裁判所である「マーシー裁判所」が設立された。しかしある日、レイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑で自らがマーシー裁判所に拘束されていた。レイヴンは冤罪を主張するが、事件前の記憶は断片的だった。無実を証明するには、AIが支配する世界中のデータベースから証拠を集め、AI裁判官が算出する「有罪率」を規定値まで下げなくてはならない。それがかなわなければ即処刑という状況の中、レイヴンは残された90分で真実にたどり着こうと奔走する。
映画.comより一部抜粋
設定と演出による、圧倒的な臨場感

レイヴンは、最初に自分のおかれた状況についてAIから説明をうけるのだが、立て続けに情報を並べ立てられ、観ている側も頭がパンクしそうになる。
しかし、この切迫感がとても良い。
主人公の焦りと、映画を観ている自分自身の「状況を理解せねば」という焦りが、同期していく感覚を覚える。
次々に与えられる事実情報をもとに、事件の真相に迫っていく様は、脱出ゲームのようなワクワク感がある。
また、90分以内に無実を証明しなければいけない設定が、映画時間と連動している構造も優れている。
主人公と同様に、観ている自分も座りっぱなしなので、画面に集中していると自ずと物語の世界に没入していく感覚がある(映画館で観ていたら、さらにその感覚は強かっただろう)
アバターのような3D作品でもなんでもないが、演出の妙で、桁違いに臨場感の高い作品となっていた。
非常にインタラクティブで、楽しい映画体験だった。
正直、これは映画館で観るべきだったと後悔したし、もしも今後、VRゴーグルに対応させたバージョンなどが出たら、体験型のコンテンツとして価値あるものにもなりそうだと思った。
エンタメとしては最高だが、SF世界のリアリティは微妙

ここまで伝えたように、エンタメとしては申し分ない作品だと思う。
しかし、本作の評価が必ずしも芳しくないのは、SF的な世界観を描いた作品としては、大きな欠点を抱えているからだろう。
最初に断っておくと、以下の点は冷静に考えるとそうなのだが、個人的にはあまり気にならなかった。
一言でいえば、本作にはSFとしてのリアリティがない。
ファンタジー、ですらない。
描きたい物語が先にあって、それに都合のよい状況を後付けしている。
と言うのも、AIによる司法制度の設定が「裁かれる側に不利」すぎて、こんな制度をアメリカ国民が受け入れるはずがないと思える。
せめて舞台を、中国など独裁がまかり通る国家に設定すべきだった。
街中のカメラ映像や通話記録などを、まるで神の視点のごとく収集できるAIが、貧弱な推論しかできず冤罪を生んでしまう、という状況にもさすがに無理がある。
そもそも、なぜ自分の弁護を自分でしなければならないのか意味不明だ。
推理アトラクションとしては一級品だったが、世界観にリアリティはなかった。
上に書いた「AIの無能さ」については、有罪ありきで人間に制度設計されたからだとも解釈もできそうなオチだが、退屈な結末だ。
AIの善性を匂わす終幕にも、SF的な驚きはなかった。
最後に一言
クライムサスペンス系の作品を、状況を推理しながら観るタイプの人には臨場感あふれる良作に感じられると思う。
一方で、アクション要素や主人公の活躍などを楽しみに、ヒーロー映画的に観たい人にとっては、かなり物足りない映画になってしまいそうだ。
上記のSF設定の甘さも含めて、本来はもっと伸びしろがあったはずなのに、色々と惜しいことをした作品だと思う。