
サブスクでレコメンドされていたので、つい観てしまった映画。
ベイビーわるきゅーれの阪元監督が影響を受けた作品でもあるらしい。
大学を卒業したけど、就職せずニートをしているタマ子(前田敦子)とその父親(康すおん)の関係を中心に、二人を取り巻く人間模様が描かれます。
観始めて最初の10分くらいは、「ヤバい。クソつまらん映画を観始めてしまったかも…」と後悔したのですが、観ているとだんだんスルメのように旨味が出てきて、最後まで楽しんでしまいました。
この映画、2つの観点で面白いと思っていて、
一つは「おやおや、お父さんもモラトリアムじゃないか」ということ。
もう一つは、「身近にいる顔のいい女が、男を狂わせる」という、ある種の倒錯した事象を描いているようにも見えることです。
この映画については、けっこう偏った捉え方をして楽しんでしまった気がして、なおかつそれをストレートに書いているので、「こいつ何言ってんだ、全然違うよ」と笑いながら読んでいただけると幸いです。
- モラトリアムなのは、タマ子だけじゃない
- お父さんにとって、タマ子との同棲生活は「潤い」になってしまっている
- タマ子と関わってしまったことで、恋愛感覚がバグってしまう男子中学生
- 最後、タマ子は「大人の女性」に敗北する
モラトリアムなのは、タマ子だけじゃない
大学を卒業したけど就職せずに実家でダラダラしているタマ子。
彼女は言うまでもなくモラトリアム状態なのでしょう。
ただ、一緒に暮らしているお父さんも実はモラトリアムだよね?という話です。
お父さんは離婚しており、いまは娘のタマ子と2人暮らしです。
タマ子は家事をロクにしません。洗濯も料理も何もかもお父さんがお世話してあげており、さながら女王アリと働きアリの関係のよう。
お父さんはタマ子に働けとは言うものの、「いまはまだその時じゃない!」と言い切る娘の迫力におされて、娘のダラけたニート生活を何となく受け入れてしまっています。
観始めてわりと早々に、実はお父さんは、娘とのいまの生活をダメだと分かりながらも楽しんでいるのではないか?という疑惑がよぎります。
ここから映画の世界に一気に引きずり込まれます。
お父さんは一度離婚してるし、年齢的にもいまさら新しい恋に踏み出す勇気が持ちづらいはず。表向きは、娘が独立してくれなくて大変だよ…、なんて顔をしてるけど、心の中では自分のほうが足踏みしていることに気づいているんです。
小難しく言えば、娘と父の関係は、共依存的な関係にも見えてきます。
タマ子がアイドルを目指すという話を聞いたときに、父親が薄っすらニヤけているように見えたのは、「よしよし、これであと数年は実家暮らし確定だな」とか「あー、当分こいつは結婚しないな」なんてことを思ったからなのでしょう。
お父さんにとっては、現状の、娘との心地よい同棲生活こそが「モラトリアム」であって、離婚した一人の男性として次の恋に踏み出すまでの猶予期間、という意味合いでもモラトリアムな期間だと言えます。
この父娘の奇妙な関係性から、だんだん目が離せなくなっていきます。
お父さんにとって、タマ子との同棲生活は「潤い」になってしまっている
タマ子はそれなりに美人という設定です。
少なくとも自分でアイドルに応募するくらいには、自分の顔の良さをそれなりに自覚しているはずです。
お父さんにとってタマ子の存在って、いわゆる「女っ気」なのだと思います。娘だから性愛の対象ではないけど、自分の好みの顔をした若い女が家のなかで無防備に転がっている感じが、正直、悪くない状況なのでしょう。
タマ子が生足をポーンと放り出してくつろぐ姿に自然と目を奪われるのは、男性だけではないはずです。
演出の妙ももちろんあるけれど、この点については、前田敦子という逸材をキャスティングできた時点で勝ち確定だったと思います。
とにかく、若くて綺麗で、遠慮しなくていい気軽な関係の女性が家にいる現状は、お父さんにとって理想的なぬるま湯状態なのだろうと感じます。
タマ子と関わってしまったことで、恋愛感覚がバグってしまう男子中学生
父親との関係と並行して描かれるのが、近所に住む中学生男子との関係。
これもなかなか味わい深い。
最初は、実家のスポーツ用品店にバスケットシューズを買いに来たことがきっかけでタマ子と接点を持つのですが、次第にタマ子の下僕のような関係性になっていきます。
彼からすると、年上の可愛いお姉さんで気軽に話をしてくれる存在なので、頼み事をされるとつい言うことを聞いてしまいます。
同監督作品である「化け猫あんずちゃん」でも、似たような女の子と男の子の主従のような関係が描かれていたので、この奇妙な関係は、ひょっとすると監督のフェチなんじゃないかと思ったり…。
中学生の彼は、同年代の彼女ができるのですが、最終的には「自然消滅」してしまいます。
これって、身近で気安く話せるタマ子に大人のエロさがあって、彼女に振り回される感じが何となく心地よくって、逆に同年代の彼女との関係が、物足りなく感じてしまった結果なんじゃないかと思ってしまいます。
タマ子のせいで、この男の子の青春は、完全に狂わされてしまったように見えます。
映画では描かれませんが、ここから彼にとっての長い長い恋愛モラトリアム期間が始まってしまうのではないか。そんな心配をしてしまいます。
最後、タマ子は「大人の女性」に敗北する
お父さんが再婚を考えている女性に、タマ子はこっそり会いにいきます。
嫌なヤツだったり、父親を騙そうとしている悪い女だったら良かったのですが、出てきたのは美人で性格のいい大人の女性。
どう考えても、家事もろくにできない無職ニートの自分では太刀打ちできない、本物の「いい女」だということがわかってしまい、タマ子は父親から“身を引く”ことを決意します。
最後、「おまえ、家を出ろ」という父親に「合格!」と答えるタマ子が、実にいい。
歪んだ父娘の愛情が絶妙に表現されていて、すごく美しいけど、何だかいけないものを見せられているような気もして、最高のラストでした。
