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『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』感想:室井慎次は、単なる「令和に対応できなかった者」なのか?

『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』ネタバレ感想です。

 

『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』
気になっていたので、レンタルして2本ぶっ続けで観ました。

 

大前提、この映画が好きです。

好きなんだけど、やっぱりエンタメとしてはしんどい部分も見えてしまうのでそのあたりも含めて書きます。

 

室井慎次は、令和に対応できていない

20年前に人気を博したキャラクターなのでしょうがないと言えばしょうがない。
でも、映画を観るのはいまを生きている人です。

 

いま改めて室井さんを見ると、その行動様式があまりに前時代的なんですよね。
単なる価値観をアップデートできてないおじさんになっている。

 

室井さんってこんなに寡黙な人だったっけと心配になるくらい、マジで無口です。
せめて「あぁ」とか「そうだな」とか相槌くらい打ってもいいのでは?と感じるシーンが頻発します(話す相手が子どもなので余計にそう感じる)

 

まぁこれが室井節なのでしょうがないし、言葉足らずな展開にもだんだん慣れてはきますが、映画を観ながらだんだん寂しい気持ちになってきました。

 

20年くらい前の当時は、室井さんがカッコよく見えたんですよ。

 

多くを語らず、でも信念がある。
表向きは分かりづらいが、実は部下のことを深く信頼している。

口先ばっかりで何もしないリーダーが批判されて、不言実行なリーダーがクールに見えていた時代でした。

 

でも、いまは完全に有言実行の時代で、政治家がYOUTUBE配信に精を出すくらいには、よくしゃべるリーダーが求められている。
自己開示が上手な人こそリーダーの資質ありという時代になっている。

 

変わってないなぁ室井さん!という、当時を思い出しながらワクワクする気持ちの裏側で、「あれ、思ったほど室井さんがカッコよくないかも、というかダメなオジサンになってる…」という期待外れ感も芽生えてしまって、複雑な心境でした。

語らないことで、救われる人もいた

ここから、これまで書いた話と矛盾することを書きます。

 

実は、この前半の落ちぶれた室井慎次の描写は、前後編でドラマを魅せるための演出なんだと、すべて観終えたいまは理解しています。
(ただし、納得まではいってないです)

 

室井慎次は令和の価値観にマッチしていないおじさんではあるけれど、そんな室井さんの行動によって救われた人もいました。

 

たとえば、あの人が小さな過ちを犯したときに、自分から反省して誤りにいくのを待つことができた。
放火した犯人が、自らの行いを反省して更生するきっかけを作ることもできた。

 

そもそも、事情があって里親に引き取られている子どもたちにとって、ズケズケと会話をしてくる人よりも、寡黙で時間をかけて意思疎通する人のほうが、打ち解けやすい可能性もあります。

 

ただ、理解はするけど納得はしないと書いたのは、これらの室井さんのコミュニケーションは、必要に迫られて狙ってそうしたのではなく、室井さんのキャラが偶然ハマっていただけで、完全な結果オーライだからです。

変わらない室井慎次と成熟した視聴者のギャップ

「偉くなって組織を変える」という青島刑事との約束を、室井さんは果たせなかった。

そりゃそうで、令和の価値観で室井慎次をリーダーとして評価したときには、たぶん多くの組織で「問題あり」となるはずです。

 

当時の価値観でも、すでに室井さんは異端だったと思いますが、少なくとも彼の多くを語らないスタイルはカッコよく見えていました。

 

しかし、いま改めて見ると、室井さんの行動は独りよがりに見えたり、周囲の配慮がないとパフォーマンスを出せない人のように感じられることもありました。時代の流れはおそろしい…

 

ただ、それでも本作が“ギリ”ドラマとして成立していると感じさせられるのは、思い描いたキャリアを歩めなかった室井さんが、山奥に隠居しながらも等身大の夢を叶えて静かに退場していく様子に、古きよきロマンチシズムを感じるからなのだと感じます。
とは言ったものの、若い人が観たら120%響かない自信がある。

 

あくまでも、当時『踊る大捜査線』に熱狂していた世代が、すっかり大人になった今、当時を懐かしみながら観ることが想定された映画なんだと思います。

 

本作での室井さんの役回りは、子どもたちの父親代わりになる存在ですが、年老いた自分の父親に対して、似たような感情を抱いた覚えのある大人は、それなりにいるのではないでしょうか。

 

よく知っている人が老いた姿を見るときに、憐れむ気持ちとそれでも尊敬できる気持ちとが同居する、不思議なあの感覚です。

家族もまた、一つの「組織」だ

リクが組織と家族の話をするシーンがあって、里親制度でもらわれてきたリクが、室井さんのことを家族だと話します。
幼いリクが無邪気に話すからこそ、心からそう思っていることが伝わって、心震えるシーンになっています。

 

その場面を見ながら“やはりそうか”と腹落ちしたのですが、室井さんのスタンスは、ずっと変わってないんだなと。

家族というのは一つの小さな組織で、組織のリーダーである室井さんは仲間(家族)を守るために動いている。

ときには厳しい対応に見えても、誤解されても、相手を信じているからこそ、本当にその人のためになることを愚直にやり抜く。

 

室井さんには、かつて犯人を追い詰める過程で、仲間が撃たれ大きな怪我を負わせてしまった後悔がありました。

同じ後悔をしないために、本作の室井さんは危ない橋を渡ることもいとわない。
それが結果的に、家族みんなを救うことにつながっていきます。

 

管理官として後ろに控えているのではなく、自らが矢面に立つことで家族を守るのです(ただ、そんな室井さんの姿勢が、最後に悲劇を呼んでしまうわけですが…)

敗れざる者、生き続ける者、室井慎次

途中までは、令和にアップデートできていない室井さんにやきもきさせられることも多かったのですが、結局最後は、一見ロートルな室井さんのやり方だからこそ人を動かせるようなところもあると感じられてきて、一定の納得感はありました。

 

前編では室井さんは出世レースに敗れたおじさんとして描かれますが、結末としては、彼を慕う優秀な警察官はいまだにいて、彼の名前を冠した捜査モデルが警察内で採用されることにもなっていく。

 

室井慎次は決して敗れたわけではなく、人々のなかで生き続けるのです。
なかなかご都合主義だけど、「踊る」の世界観としては、まぁこんなもんでしょう。

 


 

ただ、最後に多少苦言を呈すると、それでも前後編にまでしてやるのはちょっと上映時間が長過ぎました。

そして、踊る大捜査線の青島的なノリが好きな人にとっては、全然期待と違うものを見せられたかもしれず、当時の映画の評価がパッとしなかったのも分からないでもないです。サスペンス的な観点でみると破綻してますしね。

 

ただ、「これは室井慎次のための物語だ」という前提で観るとしたら、テーマは古臭いし、だいぶ偏ってるけど、昭和的な男の美学みたいなものを見せてもらえるドラマにはなっていたと思います。

ただし、それをいま見て面白いかは別問題。
懐かしさも含めて、こういうのもたまにはいいなと思いましたが、懐かしさが感じられない人にとっては、なかなか厳しいと思います。