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『ナイト・オン・ザ・プラネット』感想:まだ“Chill(チル)”という価値観がなかった時代に作られた、至高のチルアウト作品

『ナイト・オン・ザ・プラネット』の感想です。主に、ウィノナ・ライダーの登場するロサンゼルス編やベアトリス・ダルの登場するフランス編について語っています。

5つの都市のタクシードライバーと客との会話劇が描かれるオムニバス作品。

それぞれ20分程度の尺ながら、乗務員と乗客のそれぞれの人となりや人生が立ち上がってくる味わい深い作品です。

BGMになっている「Back in the Good Old World」の醸し出す、奇妙な夜の雰囲気がたまらなく良い。

どの章も、ショート・ショート的なエスプリが効いていて秀逸ですが、個人的には、1つ目のロサンゼルス編と、3つめのフランス編が好きでした。

また、原題(Night on Earth)よりも邦題のほうが優れている、数少ない作品だとも思います。

 

あらすじ

ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市で同時刻に走るタクシーで起きる物語をオムニバスで描く、ジム・ジャームッシュ監督作品。大物エージェントを乗せる若い運転手、英語の通じない運転手、盲目の女性客と口論する運転手、神父相手に話し出したら止まらない運転手、酔っ払い客に翻弄される運転手。地球という同じ星の、同じ夜空の下で繰り広げられる、それぞれ異なるストーリーを描く。ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ロベルト・ベニーニら豪華キャストが集結。

映画.comより一部抜粋

ロサンゼルス編

若きウィノナ・ライダーが演じるドライバーは、乗客の映画関係のエージェント(ジーナ・ローランズ)に映画女優にならないかと誘われる。

映画を観ている人は、ウィノナ・ライダーの魅力に当然ながら気がつくわけだけども、その彼女を見初めて「映画スターにならない?」と勧誘することで、観客と乗客の女性との間に、ある種の共犯関係が生まれるのが面白い。

彼女は結局、将来は整備工になるのだと言って、女優になる話を断ってしまいますが、原石が原石のまま埋もれていくことの惜しさと、一方で、その輝かしい原石を目撃した喜びとがないまぜになり、なんとも後ろ髪引かれる余韻が残ります。

フランス編

ベアトリス・ダル演じる盲目の女性とドライバー(イザック・ド・バンコレ)の対比構造が面白い。

彼女は盲人なのだけど、眼を隠すためのサングラスをしていません。

そのため、常に白目をむいた状態となっており、ドライバーの彼は彼女が気になってしかたない。

 

「口調や声のトーンで出身がわかるか」という問いに対して、彼女はピタリと彼がアフリカ系でコートジボワール出身だと言い当ててしまうのも皮肉です。

肌の色とは関係なく、いまの自分のあり方や振る舞いが、そうなのだと言われているように彼は感じたことでしょう。

ドライバーは彼女を気にして、しばしばわき見運転をしており、彼女を降ろしたあとも歩いていく彼女を目で追いかけてしまい、最後には交差点で接触事故を起こしてしまいます。

 

降車直後の一連のやりとりも、ブラックジョーク的でクスりとさせられます。

ドライバー:「気をつけて!」

盲目女性:「自分こそ気をつけて」

(事故後に)

相手のドライバー:「バカ!アフリカのつもりか?」「お前 盲人か?」

 

ドライバー同士のやりとりを聞いて、盲目女性はニヤニヤ笑いながら歩いていくのですが、映画を観ている人も彼女とまったく同じ顔になっちゃいますよね、これは。

くだらなくて、バカバカしくて、愉快。

人生の友になるような映画

オムニバス形式だから重厚さはないけれど、「短時間でもこんなにキャラクターを生き生きと描き出すことができるのか!」という驚きを味わえる作品です。

会話劇としての面白さは一級品で、人生の悲喜こもごもが詰まっています。

人生の友になるような一本だと思いました。

余談:本作からインスピレーションを受けて製作された音楽と映画

この映画を最初に観たのはたぶん20年くらい前で、内容も観たことすらもすっかり忘れ去っておりました(観ている途中で「あれ?」とデジャヴを感じて思い出した感じ)

 

今回、久々に観たのは『ちょっと思い出しただけ』という映画に本作が登場したことがきっかけです。

本作とのつながりとしては、アーティストの尾崎世界観さんが、本作をマイベスト映画としていて、そこから「ナイトオンザプラネット」という楽曲を製作。その曲に触発されて生まれたのが、映画『ちょっと思い出しただけ』となっています。

ドライバー役を演じる伊藤沙莉と本作のウィノナ・ライダーの生き方には重なる部分も感じられ、両作品を並べて観たことで、一段深く映画を味わえたような気がしました。