『俺ではない炎上』ネタバレ感想です。本作のコミカルな点にふれつつ、終盤のトリックを含めた脚本の是非について語っています。

シンプルに楽しい映画でした。
汚名を着せられて炎上した山縣(阿部寛)が、警察やマスコミ、YOUTUBERなどから逃走しつつ、真犯人を探します。
ミステリー要素はありますが、リアリティラインがかなり低い作品で、ほとんどファンタジーと言ってもいい内容です。
基本的には、ありえない逃走劇を見せる阿部寛を、笑いながら楽しむ映画です。
あらすじ
大手ハウスメーカー勤務の山縣泰介は、ある日突然、彼のものと思われるSNSアカウントから女子大生の遺体画像が拡散され、殺人犯としてネット上で名指しされてしまう。身に覚えのない事態に無実を訴えるも、またたく間に情報は広がり、ネットは炎上状態になる。泰介の個人情報は晒され、日本中から追いかけかけ回されることになってしまう。彼を追う謎の大学生・サクラや、大学生インフルエンサー・初羽馬、取引先企業の若手社員・青江、泰介の妻・芙由子ら、さまざまな人物の思惑が絡み合い、事態はさらに混迷していく。泰介は必死の逃亡劇を繰り広げながら、無実を証明し、自分を陥れた真犯人を見つけようと奔走する。
映画.comより一部抜粋
ふざけた脚本を、大真面目に演じる阿部寛が最高

阿部寛が演じる、空気を読めない嫌味な部長という人柄は、コントに出てくるキャラクターのよう。
自宅のポストに、いたずらで突っ込まれていたネギを、怒りにまかせて車に叩きつける癇癪姿は滑稽でした。
逃走中に車を乗り捨てて、マラソンランナーのようにひたすら長距離を走って逃げる絵面もシュールです。

逃走中に何度か食事にありつけるシーンがあるのですが、阿部寛が全力で焼きそばやパスタにがっつく姿も、真剣にやってるはずなのに、やはりお笑いコントのようでどこか可笑しみがあります。
極めつけは、高所からとある場所に侵入するために、パンツ一丁になり、自分の衣服を結び合わせてロープ代わりにするシーン。
失敗して地面に叩きつけられるのが実に痛そうなんだけど、ふっと失笑してしまう。
その後、部屋の隅っこで半裸のまま三角座りする姿も、あまりに情けなくて笑ってしまいました。
脚本の内容が滑稽で、それを阿部寛がめちゃくちゃ真面目に全力で演じるギャップがあって、なんとも言えないおかしさが醸し出されていました。
コミカルな演劇として、楽しい映画

上記のように、阿部寛の空気の読めない昭和のオッサン役はがっちりハマっていましたし、妻役の夏川結衣の警察の取り調べシーンでの独白も圧巻でした。さすがは大女優だなと。
「あんたが諸悪の根源だからだろうが!」と叫ぶ、芦田愛菜の徐々に感情が爆発していくシーンも、予告編では何度もみたけど、ドラマの流れのなかで観るとさらに良かったです。
映像の面でも、物語の進行と並走しながら、次々とユーザーによる投稿がポストされて炎上していく様子が上手く表現されていましたし、一連の芝居劇としては、とても楽しめるものでした。
(ネタバレ)不要なトリックのせいで、面白さ半減
予告を観たり、あらすじを読んだりして興味を惹かれたら、観て損のない作品です。
期待通りに笑わせてもらえる作品だと思います。
ただ、1点だけ不満があります。
それは本作に叙述トリックが仕掛けられていること。
その仕掛けにリソースを取られてしまい、窮屈な脚本になっているのが、とてももったいなく感じてしまいました。
トリックを成立させるために、阿部寛と芦田愛菜の接点が極限まで削られてしまっているんです。

ありがちな叙述トリックを仕掛けるよりも、阿部寛と芦田愛菜が劇中でどんどん絡んでいったほうが、何なら途中からいっしょに逃走して、親子喧嘩しながら真実にたどり着くドタバタ感のある展開のほうが、エンタメとしては遥かに観たかった展開でした。
原作を読んでいないので何とも言えませんが、原作はもうちょっとリアリティラインが高いのではないでしょうか。じゃないと叙述トリックが活きませんよね。
正直、本作のようなコメディ展開のなかで叙述トリックをやられても、痛快な感覚はありませんでした。コミカルにするのであれば、脚本をもうちょっと原作から改変したほうが良かったと思います。
この作品にとって叙述トリックは本質じゃないと感じます。
むしろ、炎上にまつわる主要人物の感情や背景を深堀りできたほうが、映画としては厚みが出たのではないかと、素人の自分には思えてしまったのでした。