『坂元裕二論』の感想・書評です。
脚本家の坂元裕二氏について、過去の作品から最新作まで批評しながら、彼が一貫して描こうとしたものや、彼の思想の変遷について迫った一冊。
坂元裕二氏には、恥ずかしながら関心を持ったのがここ数年のことなので、本書で触れられていた過去のテレビドラマシリーズについては未視聴でした。
ただ、各作品についての解説が丁寧だったので、ネタバレをあきらめて読むぶんには差し支えなく、未視聴ドラマ部分についても本書を楽しむことができました。
過去の坂元裕二氏の描いていたテーマ感について触れる、良いきっかけになったと思います。
中でも、『片思い世界』についての論評は、個人的に興味深かったです。
後半に登場する、ある人物の描かれ方やその顛末への物足りなさという点では、筆者と同感でした。
さらに本書では、その部分が、坂元裕二氏が一貫して描こうとしてきた"理解できない他者"とどう向き合うかというテーマに直結する部分であると指摘し、他者への理解を坂元氏が諦めてしまったようにも見えるという論考になっていました。
『ファーストキス 1ST KISS』においても、理解できない他者を描いてきた坂元氏が、夫婦が分かり合える物語を描いたことに筆者は驚いています。
個人的に、この結末には特に違和感がなかったので、筆者が「坂元氏の作風の変化」として指摘していたのが面白かったです。
氏の作品郡を、時代の流れにそって捉えている解説本ならではの視点だと思いました。
ただ、『ファーストキス 1ST KISS』について言えば、カンナ(松たか子)は駈(松村北斗)を「分かれた」のかと言われると疑問が残ります。
個人的には、理解できない部分もあるけど、それでも夫婦としてともに生きたいから「理解できない部分も含めて、受け入れた」のが、カンナの選択だったようにも思っています。
だとすると、坂元氏の「理解できない他者」との格闘は、やはりいまも継続中だと考えたい。
むしろ、『ファーストキス 1ST KISS』では、たとえ目の前の大切な人を理解しきれなくても、それでも大丈夫という、結論が出せないなりの対処療法を示したのだとすると、あのほろ苦い結末にも、より納得できます。
読了して、全体としては、坂元裕二作品への愛ある批評・考察本という印象を持ちました。
時折現れる、チクリとひと刺しするような鋭い指摘も、個人的には心地よかったです。
この辺り、氏の持ち味や大切にしているテーマを読み解いた上で、批判すべきは批判するという姿勢が真摯で、信頼できる筆者だと思いました。
自分は、坂元裕二ファンというほどでもなく、「坂元氏の作品には面白いものが多いなぁ」くらいの興味だったのですが、それでも非常に楽しめましたし、氏への理解が深まったことで、今後の作品鑑賞が捗りそうだとも感じています。
私くらいのライトな興味度でも十二分に楽しめたので、映画・ドラマ好きな方であれば、広くお勧めできる一冊だと思いました。
