『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』ネタバレ感想。

「アイデン&ティティ」の田口トモロヲ(監督)と宮藤官九郎(脚本)による青春音楽映画。
郊外の田舎で、写真家になる夢に破れたユーイチは、悶々とした気持ちを抱えながら畜産業の手伝いをしている。
視線の先には、東京でノーパン喫茶で働いていたが出戻ってきたというセクシーな女が…。しかし、ふいにラジオから流れるパンク・ロックを耳にした主人公は、「これだ!」と目を見開き一目散に駆けていく。
「セックス」よりラジオから流れてきた「セックス・ピストルズ」の楽曲が、彼のハートを撃ち抜いたというわけだ。
物語の背骨になるようなシーンをあえてギャグっぽく語るシャイな演出が、実に脚本のクドカンらしい。
本作の世界観を一撃でわからせる、明快なオープニングとなっていた。
あらすじ
1978年、ラジオで耳にしたセックス・ピストルズに突き動かされて上京したカメラマンの青年ユーイチは、小さなロックミニコミ誌「ロッキンドール」をきっかけに、ライブハウスを訪れる。そこは音楽もバンドも観客たちも何にも縛られない生のエネルギーにあふれた場所で、ボーカルのモモが率いるバンド「TOKAGE」のライブに衝撃を受けたユーイチは夢中でシャッターを押す。正式にカメラマンとして撮影を依頼されたユーイチは、彼らと交流を重ねていく。やがて彼らの音楽は若者たちを熱狂させ、そのムーブメントは「東京ロッカーズ」と呼ばれ日本のロックを塗り替えることとなる。
映画.comより一部抜粋
永遠の思春期

ユーイチを演じる峯田和伸は、実年齢48歳だが、音楽の話をしたり夢を語ったりするときに青年のような目の輝きをしているのが印象的だ。
これは演技というより、アーティスト活動も含めたこの人の生きざまや人間性のなせる技だと思う。
ユーイチは、舞台上のモモ(若葉竜也)や熱狂する観客の様子を、キラキラした目で見つめる。
生き生きとシャッターを切る姿を通じて、主人公がパンクロックにのめり込んでいく熱が、実感として伝わってくる。
決して「うまい演技」ではないはずなのだが、発せられる言葉の一つひとつに、強烈な説得力があった。
ストイックな物語展開

本作において、バンドマンとは切っても切れないはずの色恋ざたは、ほとんど描かれない。
モモとサチ(吉岡里帆)は付き合っている設定だと思うが、その辺りの事情は完全にそぎ落とされている。
音楽活動や当時のムーブメントにだけにフォーカスする構成が潔く、テーマの純度を高めていたと思う。

また、モモが車中で峯田に吐露した「売れたものが良いわけじゃないだろ」という想いは、若葉竜也の役者として大衆に媚びない姿勢とも重なるように思えた。
あのシーンは、自分自身の想いも何割か乗っていたんじゃなかろうか。
峯田さんと同じく、演じる役者の人間性がキャラクターに乗っかることで、本作の青臭さの魅力が、一層、引き立てられていた。
ションベンは、愛の表現

本作で語られる物語は、自分よりひと世代前の話だ。
自分が学生のときは、ミッシェル・ガン・エレファントなどが流行っていたけれど、そういったバンドが、この映画で描かれたような歴史を踏まえて台頭してきたバンドなのだという原点を見せてもらった気がした。
自分は音楽にはまったく疎くて、若葉竜也がメインで出演しているという理由で観に行っただけだ。
正直、楽しめない可能性も覚悟していたけれど、まったくそんなことはなく楽しめた。
特に、各ライブシーンの迫力は圧巻だった。
本物のバンドの音源に合わせて役者が演じているのだが、ちゃんとその人から音が聞こえてくる感じがした。
役者陣は、元のアーティストの動きなどを、かなり研究して本番に臨んだのだと思う。
仲野太賀の演じる未知ヲが、舞台上で観客にむけて放尿する場面がある。
スタッフから咎められた彼は「愛の表現だ」と反論し、観ていた当初はあっけにとられた。
しかし、映画を観終わって思い返すと、彼らが肉体からほとばしるものすべてを使って自己表現していたのだと、何となく理解できる気がしてくるから不思議だ。
これはまぎれもなく、パンク・ロックと映画の力だと思う。