『サンセット・サンライズ』ネタバレ感想です。宮藤官九郎的なドラマ・人物の描き方や、本作におけるコロナの描かれ方について語っています。

当時、劇場で観たかったのに、タイミングを逃してしまった作品。
配信が始まり、ようやく観ることができました。
東北の震災から9年、コロナ禍でロックダウンが起きていた2020年の世界観を下敷きに描かれた作品です。
菅田将暉の演じる、大手企業に勤める”西尾”がリモートワークを機に三陸の漁師町に移住してきて、地元の住人と交流していく筋書きです。
この映画、震災やコロナなどの象徴的なテーマ設定に惹かれて観た人のなかには、期待外れと感じる人もいるかもしれません。
本作は、あくまでも宮藤官九郎の新作なので、そこを踏まえて観たほうが良いのと、映画のタイトルが震災もコロナも関係なく「サンセット・サンライズ(陽はまた昇る)」だという点を、ぜひ念頭に置いて観ていただきたい。そんな映画です。
軽妙なドラマのノリで描かれる、三陸での生活と、人と人とのつながり
作品全体のディティールはほどほどに抑えられていて、軽妙なドラマをやるトーンになっています。いわゆるクドカン節というやつです。
たとえば、地元で暮らす人々の生活の描かれ方が、コロナ禍で経済がストップしたり色々あるはずなんだけど、そういった深刻さはあえて表立っては表現されません。
西尾の勤める「シンバル社」も、田舎の人が知っているくらいの超大手企業として描かれていますが、それにしては西尾自身にエリート感がないし、彼の職種も判然としない。
社長(小日向文世)がいち部門の業務に関わってくるのも、現実味のある展開には見えません。
井上真央が演じるヒロインの関野百香と父親役の関野章男(中村雅俊)との関係にもそれは現れています。
二人とも三陸の田舎の人の設定で、方言が強い言葉遣いをします。非常にわかりやすく田舎の人だとわかるキャラ付けがされているのですが、根っこのところに持っている価値観は都会的です。
移住者を積極的に受け入れたり、最終的に夫婦という形にこだわらない生き方を選んだりと、先進的な考えを自然に受け入れられるパーソナリティとして描かれています。
映画の2時間のなかで、二人の思想が大きく変化したようには表現されておらず、作品で描きたいテーマに合わせて、多少、理想化されている印象も否めません。
ただ、このあたりは、意図的にそう描かれているようにも思えました。
個人的に、クドカン作品は、あまりリアリティを重要視しないというか、テーマを直接的に捉えるのではなく、そこで生活する人の人間関係を描くことで、結果的に、テーマらしきものが背景として立ち上がってくることが多いと感じます。
そして、人と人とのあるべき関係性のようなものを、現実や論理を越えて、その場の雰囲気のなかに描いてしまうのが、魅力の一つでもあると思います。
西尾と町の人々との関わりや、百香と章男の親子を越えた関係性は、見ていて実に居心地よかったです。
町の仲間たちが集う小料理屋のウェルカムな雰囲気も、Theクドカンなノリで最高でした。みんなが思い描く「こうあって欲しい、理想の田舎町」の姿が温かく描かれています。
全編通して、悪人が一人も出てこず、都会vs田舎のような安易で嫌らしい構図にもなりません。
終始、安心して身をゆだねられる穏やかな展開に癒されます。
震災もコロナも"描かれて"はいない。ただ、そこに出来事としてあるだけ
震災やコロナなど、テーマとしてはあるように映るんですが、この作品において、実はどちらも”描かれていない”のだと思います。
Zoom飲み会やソーシャルディスタンス!のような記号的な要素は出てきます。ただ、それは掘り下げる対象としては扱われていなくて、当たり前にそこにある、あった出来事として、物語の背景的に置かれているだけです。
震災で夫と子供を失った百香が、都会から来た西尾と新しい一歩を踏み出す。震災やコロナが、過去の出来事として日常の景色のなかに溶けていく。
描きたいのは震災でもコロナでもなく、それら人生の出来事を全部含めて、親しい人との関係や時の流れが、心を癒したり前に進めてくれるということ。
「サンセット・サンライズ」というタイトルの通り、陽はまた昇るという人生の希望のようなものを、三陸で生きる人たちの日常を通じて浮かび上がらせてくれる素晴らしい作品だったと思います。
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