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映画『入国審査』感想:意外にも、審査されたのは2人の****だった

入国審査、観てきました。

スペインからアメリカに入国したカップルが、入国審査で大変な目にあう話です。77分という短時間の映画かつ、その大部分が密室での会話劇という振り切った構成。

ここから基本ネタバレありで書きますので、まだ観ていない方はご注意ください。

 

尋問される側から、尋問する側へ

ディエゴとエレナは、別室に呼ばれて不条理な尋問を受けます。

始まってしばらくは、職員と2人のやりとりを“不条理な尋問”という感覚で観ていました。
ところが、ある一連の質疑を境に、急速にその“不条理”という感覚が消えていきます。

最初は、尋問されている側の立場でみていたはずなのに、気づくと尋問している側の目線で2人を見てしまっている。

この演出が巧みでした。

そして審査が進むにつれて、2人の心理的な距離が離れていき、待合室での物理的な距離も離れていく様はベタながら効果的な演出でした。

職員は2人の何を不審に感じているのか

職員の尋問のなかで、ディエゴはエレナと並行して、もう一人の女性と関係をもっていたことが示されます。

職員は、ディエゴがパートナービザを目的として女性と関係を持っているだけで、交際の継続意思がないのではないかと疑います。

恵まれている日本人にはわかりにくい感覚ですが、現状よりも「良い国」の国民となることで、経済面・安全面で大きな恩恵を受けることができる。まさに人生を変えられるビッグチャンスを手にできるという側面があるようです。

日本でも財産目当ての結婚といった価値観は存在しますが、その亜種として、永住権目当ての交際・結婚というのが存在するようです。

2人が正式に「結婚」していれば良かったのですが、「事実婚」という関係だったので、その関係に真実性があるかどうかを、あの手この手で試されることになっていきます。

入国審査という映画テーマであるにも関わらず、物語的には“2人の愛が試される”展開となっている構造が面白い。

ディエゴの抱える、複雑な事情

ディエゴはベネズエラ国籍をもっていますが、彼の実家があるベネズエラの都市「カラカス」は世界的にも犯罪の多い街となっています。
外務省のホームページでも、地域によっては渡航は止めてくださいと記載されているほどです。

そんなバックグラウンドを持つディエゴは、スペイン国籍を持つエレナと事実婚関係にあり、今回、エレナが当選したグリーンカードの権利に乗じてパートナーとして、アメリカに入国しようとしている。

しかも彼には、エレナと事実婚の関係になる直前に、アメリカ国籍をもつ10歳くらい年上の女性と、WEBで知り合って入籍しようとした経歴もある。

そしてダメ押しのように、2人は事実婚関係にあるにも関わらず、エレナはディエゴの実家にはいったことがないという、一般的な価値観からはあまりないような事実も示されます。

職員が指摘するこれら事実だけを見ると、2人の関係には不審な点があるようにも思えます。

尋問する職員は、信用ならない国籍の男が、スペイン女性を騙してアメリカに潜り込もうとしているのではないか、という目で彼を値踏みしている。

観ている側としても、ディエゴが交際にあたっていくつか嘘をついているために、彼が結婚詐欺師である可能性を疑わざるを得ない状況となっていきます。

ディエゴの生存戦略。愛情と打算の共存

ここからは劇中で完全に事実が説明されるわけではないので、あくまでも個人的な解釈となりますが――、

ディエゴはたしかにアメリカに住みたかったのでしょう。
打算的な理由で、アメリカ国籍を持つ女性に近づいた事実はあったかもしれない。

ただ、エレナと出会うことで、アメリカ国籍の女性とは別れることを決めた。
ディエゴは、エレナであれば女性的にも愛することができ、なおかつ、国籍の面でも優良物件だと打算的に考えたのでしょう。

そこに愛がないわけではないが、生きていく上での打算が確実にある。

これは彼特有のことではないでしょう。このような損得の計算はありふれたものだと思います。

ただ、入国審査という治外法権的な取り調べにより、本来であれば表に出るはずのない“内に秘めたる打算的な思考”が、ひとつひとつテーブルに載せられ吟味されることになった。

このグロテスクさ、汚いものをスマートに描いた展開は実に見事でした。

愛ゆえの嘘もある

最終的に“2人の関係が不審ではない”と判断された理由のひとつとして、2人の証言に、多々食い違いがあったことがあると感じています。

不正に入国しようとしている人ほど、入念に準備し不審な隙を作らないものだと考えるなら、2人の状態はまさに隙だらけでした。

ディエゴはある事柄について「話した」と言い、エレナは「聞いてない」と答える。
そのほか、肉体的な関係の頻度や子どもを授かりたいかという質問など、2人の現状認識やライフプランは気の毒なほどにすれ違っている。
しまいには、待合室で口喧嘩まで始めてしまう始末。

けれど、そんな様子すらも、職員たちは冷静に観察していたのかもしれない。

そして最後にはディエゴの打算的な側面までも含めて、2人の関係の真実性が認められる。

この2人は不正な入国をしようとしているのではなく、単にアメリカンドリームを夢見る、将来についてふんわりとしか考えられていない“典型的な移民者カップル”だと判断されたのだろう…。
いくらなんでも皮肉が効きすぎています。

長い取り調べの末に、最後は意外にもあっさりと入国が認められる。

「ようこそ、アメリカへ」

これが君たちの憧れたアメリカだよ、understand? と初っ端に一発かまされた感覚。
この人を食ったような幕切れは、ブラックユーモア的でとても気が利いていて、思わずニヤリとさせられました。なんて、おしゃれな映画なんだ。

2人のその後について
人によって意見はわかれると思いますが、この一件が、2人の絆を強めたのではないかと思っています。それなりに喧嘩もしつつ、これからも何だかんだで上手くやっていくんじゃないでしょうか。

余談:ディエゴが摂取する謎のエキス。あれは何?

主人公の男性が、冒頭から時々、謎の液体らしきものを口に入れており気になりました。

これ、映画を観てるときはマジで何かわからなくて、脱法的な何かに見えていたのですが、取り調べのシーンで麻薬犬も反応しなかったので、ますます何かわからなくなってしまいました。

あとでChatGPTに聞いてみたら、たぶんこういうヤツじゃない?と教えてもらったので貼っておきます。

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バッチフラワーレメディと言われる自然療法のようで、もしこれだとするなら、彼が舌の上に垂らしていたのは、花のエキスなのだそうです。緊張を和らげたりできるみたい。

飲むアロマ的なものですね。
まったく、紛らわしいことをしないでよと(笑)

もしこの液体の意味が分かっていたら、もっと早くディエゴのことを信用してあげられたかもしれません。