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『WANDA/ワンダ』感想:“足りない二人”は、眼前の幸福に気づかず、すれ違ったまま永遠に別れる

『WANDA/ワンダ』ネタバレ感想・考察。物語の解釈や構造について解説をしています。

バーバラ・ローデン監督・脚本・主演のロードムービー。
1970年ベネチア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞した作品だが、日本での公開は2022年。

 

映画ポスターの宣伝文句「悲しいほど滑稽な逃避行が始まる――」

これほど、映画を端的に現したキャッチコピーもありません。

 

バーバラ・ローデンの演じるワンダの行く末に、どうしようもなく惹きつけられてしまう。

実に素晴らしい映画でしたが、残念なことにバーバラ・ローデンの長編映画はこれ1本だけ。ご本人は乳がんにより、若くして亡くなってしまったのだそうです。

WANDA/ワンダ

WANDA/ワンダ

  • バーバラ・ローデン
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あらすじ

ペンシルベニア州のある炭鉱で、夫に離別されたワンダは、子どもも職も失い、有り金もすられてしまう。わずかなチャンスをすべて使い果たしてしまったワンダは、薄暗いバーである男と知り合う。ワンダはその傲慢な男と行動をともにし、いつの間にか犯罪の共犯者として逃避行をつづけることとなる。

映画.COMより抜粋

当時には先鋭的すぎたテーマ「境界知能」を扱う作品

これが1970年の作品?
信じられない。テーマが今的すぎます。

 

主人公のワンダは容姿に優れるが、現代でいう“境界知能”であり、社会生活に適応できない。
子育てや家事を放棄したことで、夫から離婚されてしまいます。

 

ワンダには、知能が足りてないことから来る「うかつさ」が常にあって、車を降りてソフトクリームを買っているすきに男に逃げられたり、映画館で眠りこけて財布をすられたりする。
社会生活を滞りなくおこなうための能力が著しく低いのです。

 

そんなワンダがとあるバーに立ち寄ったことで、強盗犯のデニスと出会い、事件に巻き込まれていきます。

破滅に向かう道中、ワンダは幸福に見える

デニスは元夫や一晩だけの関係を持った男性などとは異なり、ワンダの特性を受け入れているように見えます。

たとえば、朝起きられない彼女をおいていったりしない。
理解の遅い彼女に、それなりに辛抱強く対応する。

これまで彼女が、家族や社会から批判されていた点を、デニスは問題としません。

彼と過ごした数日間は、彼女にとって、それなりに居心地の良い時間だったように感じられました。

 

彼と別れることになった彼女は、また以前のように行きずりの男性に食事やビールを与えてもらう生活に戻ろうとします。しかし、男性に性的な関係を迫られた彼女はそれを拒否して逃げ出してしまう。
デニスと出会ったことで、彼女は変わってしまったのです。

 

はからずも一時的な幸福を経験してしまったことは、この後の彼女の人生をより孤独で寂しいものにするのではないか。
物語が始まったときの彼女も孤独でしたが、デニスと出会い、別れたことで彼女の孤独は一段と深まったようにも思えました。

 

物語のラスト。宿の軒下で所在なさげに佇む彼女を、一人の女性が食事の席に引き入れます。
そこでは異国の人たちが集まって宴会を開いており、BGMのない本作において初めて演奏による音楽が流れます。

 

この演奏音が、どうにもやかましく感じてしまったのは演出の勝利なのでしょうね。
演奏音と周囲の人の楽しげな話し声が、宴の輪に入ることができないワンダの、所在なさげにパンをかじりビールを煽る姿をよりいっそう孤独に浮き上がらせていました。

 

ワンダの表情が、場の楽しげな状況に反して孤独に沈んでいく。
哀しく恐ろしい結末を予感させる壮絶なラストショットが、網膜に焼き付くような幕引きでした。

デニスは悪人になりきれない男

デニスといたときのワンダが幸福だった、という考え方には、異論もあると思います。
実際、デニスはワンダに暴力をふるったり、彼の好みに合わない服を捨てさせるなどモラハラ行為も行っています。

 

ただ、デニスのそうした酷い行為(特に暴力)は、彼の中に暴力的な衝動があったというよりは、潜伏が露呈することへの焦りや恐れから来ているように感じました。

その他にも、デニスの人柄がにじむ事実がいくつかあります

 

  • バーを襲ったときも、店主を殺害していない

  • 不要になった衣服をリサイクルボックスに破棄している

  • あきらかに銃の扱いに不慣れ

  • 銀行強盗の誘いを断った男性を殺さない

  • 銀行に押し入ったときも、結局、誰にも発砲しなかった

  • 脅しに使った爆弾もダミー

 

彼はまぎれもない犯罪者でしたが、根っからの悪人ではなかったと感じます。

デニスもまた、境界知能の人だったのではないか

社会に適合できなかったワンダが、唯一、拒絶されなかった相手がデニスだった。


ただ、それはデニスもまた、社会に適合できない苦しみを背負っていたからではないか。
2人は似た者同士だったのではないだろうか。

 

彼もワンダと同様に「うかつ」なところが散見されます。

 

  • バーに強盗に入ったあとに、店をCLOSEDにしていない

  • 車を盗む際に、鍵の存在に気づかずに、強引にエンジンをかけようとする

  • 駐車中の車から、白昼堂々スーツなどを雑に窃盗する

  • 銀行強盗に入る際に、予定通りに行かなかったのに計画を中止せず敢行してしまう

  • 下調べが不十分だったため、金庫のオープン時にセキュリティが作動して、警察に通報されてしまう

 

…などなど。

いわゆる、クライムサスペンスの主人公にあるまじき、間抜けさが目につきます。

彼もまた、ワンダほどではないが境界知能の持ち主だったとも考えられます。

“足りない二人”は、眼前の幸福に気づかず、すれ違ったまま永遠に別れる

本作の最大の切なさは、ワンダがデニスの身に起こった出来事を正しく理解できないことでしょう。

 

そしてデニスも、彼女が最後になぜ着いてこなかったのか、その真意を知らないままに死んでしまうことになります。

 

お互いに知能が高くない故に理解し合えず、意図せずすれ違ったまま永遠の別れとなってしまう構造が、あまりに救いがなさすぎて胸を締め付けられます。

 

ラストショットの彼女は、飼い主を失った動物のよう。
この喪失感を、ワンダは言語化することができない。
デニスを思い出して、泣くこともないのです。

WANDA/ワンダ

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  • バーバラ・ローデン
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