『湯を沸かすほどの熱い愛』感想:監督が観客を信じなかったせいで、傑作になりそこねた怪作

『湯を沸かすほどの熱い愛』ネタバレ感想・考察・レビュー。ラストの赤い煙の意味やその表現の是非について解説しています。

『湯を沸かすほどの熱い愛』感想

とんでもない怪作。

本作は、余命を告げられた双葉が、人生でやり残したことと向き合う物語です。

彼女が亡くなるまでの2〜3ヶ月の短期間に、残りの人生をぎゅっと圧縮して見せることで、濃厚な家族ドラマを描くことに成功しています。

 

宮沢りえ演じる双葉の病状が悪化していく様が、真に迫っており、映画を本物にしていたと感じました。

もともと痩せている方ではあるけど、最後のほうのシーンは相当減量もしたのではなかろうか。女優魂を感じます。

そして本作には、物議を醸した想像もつかない驚きのラスト展開があります。

あの結末の是非についても語ります。

 

あらすじ

持ち前の明るさと強さで娘を育てている双葉が、突然の余命宣告を受けてしまう。双葉は残酷な現実を受け入れ、1年前に突然家出した夫を連れ帰り休業中の銭湯を再開させることや、気が優しすぎる娘を独り立ちさせることなど、4つの「絶対にやっておくべきこと」を実行していく。

映画.comより一部抜粋

沸騰するほどに、熱く激しい「愛」が描かれる

本作のテーマはこれです。

余命を宣告された双葉の、家族への執着が描かれていきます。

  • 学校でいじめられている娘・安澄のこと
  • 安澄に隠している実の親のこと
  • 家出した夫・一浩のこと
  • 家族の居場所である、家業の銭湯のこと

彼女が心残りとしている、これらの事象との向き合い方を示すことで、双葉という人が持つ激しさと人としての魅力が描かれていきます。

自分が死んだあとの家族が心配

いじめに遭い制服を盗まれた安澄に、一浩は新しい制服を買ってあげようかと言いますが、双葉はそれを許しません。

安澄がいじめという困難から逃げず、自分の力で問題解決することを促します。

この点については、いじめに対する向き合い方が、社会実態からやや乖離していると感じてしまう方もいそうです。

ただ、彼女の「余命」を考えると、荒療治ではありますが、自分がいなくなったあと、娘にたくましく生きていってもらうためには、まだ自分の目が届く内に自力で問題と向き合う経験を積ませたいと考えるのも理解できます。

双葉が家族に執着する理由

双葉は劇中、何度か暴力的な行動に出ます。

  • 家出した夫を見つけたとき
  • 娘を捨てた実母と会ったとき
  • (子どもの頃)自分を捨てた母を見つけたとき

彼女は母親に捨てられた過去があり、その反動もあって、家族に対する想いが人一倍強くなっていると想像できます。

その行動はときに過激で、夫をオタマで殴打して出血させたり、実母が面会を拒否したときには、玄関先の置物を投げつけて窓ガラスを破壊したり、彼女のうちに秘めたる情念の激しさを物語ります。

ヒッチハイカーの向井拓海を助けた理由

双葉は、安澄との旅行の途中、サービスエリアで拓海に乗せて欲しいと声をかけられます。

あきらかに胡散臭いし、女+子どもの2人旅に大人の男性のヒッチハイカーを受け入れるのは怖さもあるでしょうが、それでも彼女は彼を乗車させます。

厳しい人生を歩んできた双葉なりに、拓海の抱える鬱屈した感情を察したのかもしれません。

後で、ベンチで放心する虚ろな拓海の姿を見て、彼女の中にあったその予感は、確信に変わったはずです。

結果的に、ヒッチハイクを終えて戻ってきた拓海が、銭湯家業を継続する上でのキーパーソンになっていくのですが、これは物語的な縁であって、双葉がこれを見越して彼を助けたわけではないと思います。

衝撃のラストの賛否について

ラストは呆気にとられました。

霊柩車が火葬場ではなく河川敷に向かって、おや?

と思っていたら、湯船いっぱいに敷き詰められた献花のなかに、双葉の遺体が横たわっているショットがインサートされます。

そして、残された家族たちが湯船につかるシーンへ。

このあたりで、ゾゾゾっと嫌な予感が這い上がってきました。

 

ボイラーの中で燃え盛る炎と、煙突から噴き上がる煙で、予感は確信に変わります。

これは銭湯のボイラーで双葉の遺体を焼いた、ということなのでしょう。

現実世界だったら100%アウトな行為ですけど、映画としてはアリだと思いました。

彼女の家族への執着を最大限に表す表現のジャンプとして、自分を燃やしてそれで湯を沸かして欲しいという願いは、不思議と納得感がありました。

双葉さんなら、そういう無茶も言い出しかねないし、たぶん周りの家族は何とかして叶えてやろうと思ってしまうことでしょう。

そんなふうに納得できたのは、全編を通じて双葉の強烈なキャラクターを描ききった脚本の見事さと、それを演じた宮沢りえさんの迫力の勝利なのだと思います。

 

ただ、煙の色を赤くするのは蛇足でした。

観た人全員に、必ずラストの意味を分かって欲しかったんでしょうね。

劇中で繰り返し描かれていたように、双葉は赤色が好きだから、煙が赤になる物語的な理屈はわかるけど、この演出は現実感を損ないます。

本作は、このとんでもない結末が、現実感をともなって描かれるからすごいのであって、ファンタジーとして見せてしまったら、その効果は半減…

ここまで思い切った結末にするなら、観る人を信じて、潔く、灰色の煙を描くべきでした。

それで終わっていたら、超傑作になっていたと思います。

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